⽇本アカデメイア事務局
公益財団法⼈ ⽇本⽣産性本部

本フォーラムは、日本アカデメイアのメンバーならびに関係者の皆様、経済界、労働界、政府・政党関係者、学識者、自治体関係者、報道関係者など各界の皆様にお集まりいただき、日本アカデメイアの活動成果をご報告することを目的に開催しました。
特に、今回のフォーラムでは、日本アカデメイアの中心的な活動である「長期ビジョン研究会」の2年間の活動の集大成として、最終報告を行い、日本の改革に向けての活動につなげていくことを考えております。
長期ビジョン研究会は、経営者、労働組合、学識者、官僚有志が一同に会し、2030年を見据えた日本の長期ビジョンについて、「日本力」「国際問題」「価値創造経済」「社会構造」「統治構造」の5つグループで、合計80回以上の議論を重ねて参りました。

プログラム概要(2015年2月5日開催)

15:30 開会
15:30~17:10 第1部:長期ビジョン研究会・グループ報告発表会(各グループ20分)
15:30-15:50 【第2グループ:国際問題研究】
15:50-16:10 【第3グループ:価値創造経済】
16:10-16:30 【第4グループ:社会構造研究】
16:30-16:50 【第5グループ:統治構造研究】
16:50-17:10 【第1グループ:日本力研究】

17:10~17:20 休憩
17:20~18:30 第2部:総論~日本アカデメイア、われわれのメッセージ
1. 冒頭挨拶(牛尾治朗共同塾頭)
2. 報告「余剰幻想を超えて」(佐々木毅共同塾頭)
3. 討論・メッセージ「いま、日本が取り組むべきこと」
4. 締め括り挨拶・アピール(茂木友三郎共同塾頭)
18:30 閉会

詳細レポート

配布資料


速報レポート

第1部 長期ビジョン研究会・グループ報告発表会


第2グループ【国際問題研究】

2015年2月5日(木)15時30分より「アカデメイア・フォーラム」を開催しました。
用意された大きな会場は数多くの傍聴者で全ての席が埋まり、司会進行役である曽根運営幹事により開会が宣言されました。

第1部:長期ビジョン研究会最終報告発表会、最初の報告発表は【第2グループ:国際問題研究】です。
冒頭報告者である信田智人主査はじめ、計11名のメンバーが登壇です。

信田氏は「多元的で開かれた国際秩序の実現に向けて行動する日本」というテーマの下、グローバル社会全体、あるいは東アジア地域の中での日本のあり方、さらには日米関係の将来像を念頭に、われわれのめざすべき社会はいずれアメリカ一極集中の世界から脱し「東アジア地域で開かれた『多元的国際秩序』の形成」である、と語りました。

2030年の東アジアを巡る情勢の予測をした後、信田氏は日本、アメリカ、中国の国力に根ざして考慮される4つのシナリオを提示した上で、『多元的国際秩序』という可能性を目指すべきだと述べました。

続けて、そのビジョンの実現のために私たちがなすべき6つのことが提言されます。 1つ目は、米・豪・印・ASEAN諸国と連携しながら、積極的に『多元的国際秩序』の構築に貢献すべきであると主張。

次に安全保障の三層アプローチという考え方を基に、「重層的な安全保障体制の構築」の重要性を図表を交えながら論じ、さらに続けて「柔軟な価値観外交」、資源や環境・福祉問題といった人類全体の課題=「グローバルイシューへの貢献」、他国との歴史問題の齟齬を解消しつつ、国内での歴史認識のコンセンサスを作った上で、歴史教育を充実させていくこと「知的交流と歴史教育の充実」、そして今もっとも日本に不足している「世界に向けた発信力の強化」を提唱し、それぞれの重要性と具体的な施策案を提示しました。

最後に登壇者のうち、メンバーの岡さん・奥さん・池内さんの3名が研究・提言に関する補足や意見を述べました。
「国家戦略のひとつとして、放送コンテンツ・映像コンテンツを継続的に海外発信していく術を策定すべきではないでしょうか」(岡メンバー)

「経済活動を通じて東アジア全体で価値観の共有を進めていかなければならないと感じています」(奥メンバー)

「多元的、という意味を履き違えた議論が起こりやすい。多元的とは強いものに阿り、弱いものを無視することではない、ということに留意してもらいたい」(池内メンバー)

グループの報告発表は終了です。次の研究発表は【第3グループ:価値創造経済モデルの構築研究】です。


第3グループ【価値創造経済モデルの構築研究】

2番目の報告発表
【第3グループ:価値創造経済モデルの構築研究】は「イノベーションの日常化」をテーマに長谷川閑史共同座長より報告しました。
日本と海外の違いから日本の弱さを理解することで今の日本にとってイノベーションの重要性を説き、具体的なメーカーの話などを織り交ぜながら研究内容を説明しました。

リーダーがいるところにはイノベーションが起こり、イノベーションの強さが命運を分け、国家戦略では必要となる。
イノベーションを誘発するための価値創造経済を目指すため、イノベーションの推進力の強化の重要性、国際競争において日本が技術だけでなく事業でも勝つための手立てです。
また、日本経済が成長する仕組みの構築や2030年を目標とした「ユビキタス・イノベーション」への転換、そして個別企業の価値創造でマクロの課題解決の必要性を指摘しました。

さらに、コマツ相談役の坂根正弘共同座長からは実際の企業レベルでの具体的な事例を使った価値創造経済モデルを発表しました。

価値創造とは企業価値と顧客価値の関係をどう考えるかであり、企業はプロダクトアウトで顧客価値を生み出すのが重要です。お客様から頂いた対価を公平に分配していくことがチームワークを生み出すことになります。

また、西岡幸一主査からは「視点の変換が早い企業が次のリーダーになり、次の次のリーダーになにをしてもらいたいのか責任を持って渡してもらいたいと考える」という意見が示されました。

グループの報告発表は終了です。次の研究発表は【第4グループ:社会構造研究】です。


第4グループ【社会構造研究】

続いての研究発表は【第4グループ:社会構造研究】の報告です。
11名の登壇者の中から冒頭報告者として玄田有史主査が立ち、発表が始まります。

玄田主査は現状の国内社会構造研究における3つの問いを提示しつつ、他者と語り合うことの重要性を解き、目指すべき将来像を「自身と他者を信じられる」「互いの責任と権利を理解しあえる」社会であると主張しました。
そして「主義の時代」から「個の時代」へと変遷する中、個と個をつなぐことのできる「21世紀中核人材」の必要性を強調しました。21世紀中核人材は複眼力・智業力・行動力を兼ね備えており、彼らの活躍によって前述の理想・将来像が実現された信頼社会が「全員複役社会(ぜんいんふくやくしゃかい)」であると定義しました。

続けて、この「全員複役社会」とは誰もが複数の役割に取り組むことで異なる立場を信頼・理解し合える多様性社会である、と語った上で、図解を用いながらその概要・メカニズム・もたらされる利益を解説し、複役は明るく楽しい挑戦である、と主張しました。

以上を踏まえて「全員複役社会」実現のためになすべき5つの提言を玄田主査は発表します。
1.個々人の多様性を尊重しながら、合宿型の長期共同生活学習を推進。学校と保護者・地域住民、そして生徒同士の連携に重きを置いた「複線・互換型初等中等教育」。
2.文系と理系、専門と教養といった垣根を取り払った「両方やってこそ一人前」の大学教育。
3.働きやすさ、互助システムを徹底した「複役推進型雇用システム」の構築。
4.居住地とは別に「心寄せる地域」にも拠点を設置する「複数地域社会への貢献拡大」。
5.全員参加型社会を推進し、「希望活動人口」を10年で倍増させることによる「生涯現役+全員複役」社会の実現。
まとめとして玄田主査は、これら政策の推進による「全員複役社会」の実現と、「21世紀型中核人材」の存在により、2030年には日本社会が「情と理を兼ね備えた重層的信頼社会」が実現可能である、と締めくくりました。

その後、登壇者からひとことずつコメントがありました。「社会全体が半学半教、というのが私の考える全員複役社会の姿」(清家共同座長)

根底にあるのは信頼。難しいことかもしれないが、参加者のみなさんには相反するものを認め合う社会を作るリーダーとして活躍してもらいたい」(加賀見メンバー)

「すとんと腑に落ちるものというよりも、独りひとりの心にじわじわと染みわたるような研究発表であればいい、と思います」(相原メンバー)

「今年は戦後70年など、いろんな意味で節目となる年。まずは5年、2020年の景色を見据えて、これからの5年間をどう過ごしていくのかが重要」(黒田メンバー)

「研究を通して、会話をすること、理解をし合うことの大切さを痛感した」(村上メンバー)

登壇者一礼の後、社会構造研究発表は幕を閉じました。


第5グループ【統治構造研究】

【第5グループ:統治構造研究】の発表は9人の登壇者で行いました。

飯尾潤主査は有権者が責任感のない「観客デモクラシー」というべき今の現状からの脱却し「包摂しつつ決められるデモクラシー」の構築が必要であることを訴えました。
そのためには、有権者の意識を変えるだけでなく、説得力のある政治家が必要であり、そこから考えられたのが機動的な政府への行政改革、合理化と審議充実を両立させる国会改革、正統機能強化による有権者の参加、分権時代にふさわしい地方政治、そして、政府における知恵の確保、この5つの提言でした。
また、そのことは、結果的に政治は有権者が取り戻すことになり、政治を自分の問題として捉え、「支えていく政治」「市民教育の活性化」「政治について生涯学習の継続」「政治的中核層の育成」に繋がっていくことになると発表しました。

その後、登壇者の永山メンバー、野田メンバー、野中メンバー、最後に、大橋光夫共同座長から以下の意見公表が行われました。

「現在の政党の位置づけが曖昧であり、人を育てる団体として存在するべきである」(永山メンバー)

「政治は身近なものになるのが大切である。また、政治家になるためには仕事を辞めなければならないことがネックであり、求職制度の拡大が重要な課題である」(野田メンバー)

「日本では議員間の討論が時間だけを見ても少なすぎる。審議の充実化が求められる」(野中メンバー)

「2030年までは待たず、出来ることはやっていくことが重要である。日本アカデメイアの活動を広く知っていただき、国民に理解してもらいバックアップしてもらいたい」(大橋光夫共同座長)

第5グループの報告発表は以上です。最後の研究発表は【第1グループ:日本力研究】です。


第1グループ【日本力研究】

各グループによる研究報告発表、最後は【第1グループ:日本力研究】です。

福川伸次共同座長による冒頭報告からスタートです。
福川共同座長は日本社会の政治・経済・社会・文化の特質を総合したものが「日本力」である、という視座を明らかにした上で、日本の目指すべき社会像は「人間価値重視の社会」という考えに集約されると語りました。

これを踏まえ、その課題を解決し「日本力」を高めるための提言をしていきます。
人口問題・社会保障制度・財政再建・イノベーションの推進・地域社会の創世・文化振興による日本の魅力の高揚・教育の充実・対外発信力の強化・地球温暖化の解決。
計9分野における行動計画を提唱した後、これらの計画の実践に向けて、政策領域における政官民の連携と「身を切る」決断の重要性を主張した福川氏。人口減少社会において高い「日本力」を発揮した社会つくりに成功したならば、必ずや課題解決先進モデルを世界に先駆けて提供できるだろう、と福川共同座長は締めくくりました。
発表後、登壇者から意見・コメントが発表されます。

「日本力とは何かと問われたなら、高い科学技術力と文化である、と答えたい。また和の精神も日本人の誇るべき美徳、日本力なのだ」(岡村共同座長)

「先進課題を先進モデルで解決する日本力。これはまだできていない日本力。新しい日本力をどうやって作っていくのかが課題なのではないか」(曽根主査)

「功利主義では決断しきれないときに必要となるのが理想。それが日本力なのだと痛切に感じている」(小林メンバー)

「今やらなければ日本は大変なことになる、と危惧している。負を0にしていく、そして将来に向けてプラスにしていく作業。困難ではあるが、それを同時にやっていかねばならない」(遠山メンバー)

「現在を第三の国難であると捉え、身を切る改革をスピードアップさせていかねばならない」(越村メンバー)

以上で日本力についての研究発表は終了です。長期ビジョン研究会のグループ報告発表会はこれで終了です。
この後は「第2部:総論〜日本アカデメイア、われわれのメッセージ」です。


第2部 総論〜日本アカデメイア、われわれのメッセージ

【登壇者】

共同塾頭 牛尾 治朗(ウシオ電機会長)
共同塾頭 茂木友三郎(「国際問題研究」共同座長、キッコーマン名誉会長 取締役会議長)
共同塾頭 佐々木 毅(「統治構造研究」共同座長、明るい選挙推進協会会長)
共同塾頭 緒方 貞子(前国際協力機構理事長)
共同塾頭 古賀 伸明(連合会長)
共同塾頭 清家 篤(「社会構造研究」共同座長、慶應義塾長)
共同塾頭 吉川 弘之(科学技術振興機構研究開発戦略センター長)
会員委員長 福川 伸次(「日本力研究」共同座長、地球産業文化研究所顧問)
運営幹事 増田 寛也(東京大学大学院客員教授)
運営幹事 曽根 泰教(慶應義塾大学教授)
幹事 岡村 正(「日本力研究」共同座長、東芝相談役)
幹事 長谷川閑史(「価値創造経済モデルの構築研究」共同座長、武田薬品工業会長CEO)

アカデメイア・フォーラム第2部はテーマを「総論~日本アカデメイア、われわれのメッセージ」と題して、牛尾治朗共同塾頭の「余剰幻想はなく、これからの日本の将来の厳しい現実を理解し、その上で、高いビジョンを考えていくつもりである」という冒頭挨拶で始まりました。

そして、この課題も含め、日本アカデメイアの活動報告と共に佐々木毅共同塾頭による報告がありました。

 日本アカデメイアの目的は「バラバラとなってしまっている政治家と官僚、国民各界の孤独感を直し、ネットワークを組み直し充実していくハブ的な役割」であるということを改めて伝えた上で、3年近い日本アカデメイアの活動内容と共に、報告がスタートしました。

テーマは「余剰幻想を超えて」。歴史の中における世界と日本との関係性を述べながら、現代のグローバル化・スピード化が加速する一方で国際的な協力関係の構築や問題解決能力は衰弱し、国際的リーダーシップやガバナンスの欠如といった懸念部分が大きいと考えつつも、かつての先進国の姿、20世紀文明の残像がいまだに世界を走らせている原因であり、擬似未来というべきものに考え方から過去にすがって脱却できていないと述べました。それにより、全てにおける短絡的な志向・思考が広がっていることが懸念であり「日本アカデメイア」ではかねてから政策における時間軸の重要性、短絡的志向・思考の限界を指摘しており、長期ビジョン研究会の最終報告から、2030年を念頭に日本のあり方を大きく変えるための長期ビジョンを示しました。

長期ビジョンを構想することは「余剰幻想に終止符をうつこと」。それにより21世紀型社会へと飛翔することであり、そして、2030年の構想、21世紀型社会の構想とは、一言で言えば「余剰幻想寄りかかった社会」を「次の世代に投資する社会」へと転換することであり、ヤングデモクラシー(次の世代)にバトンタッチすることであるとの見解を提示しました。

 それとともに、求められるのは「日本社会の品位ある存続可能性」であるものの裏側から見るとその可能性は厳しいシグナルが出ていると述べ、それが共通認識にあるかというと懐疑的であるという見解を示しました。

その上で「極めてチャレンジングな世界に身を投じることになるが、人間を大切にし、評価し、能力を活かす社会に移行していくということを、どれだけ浸透させていくのかがこれからの日本には大きく関わっていくことであり、そのなかで品位ある存続可能性を期待したい」という意見を展開して報告を締めました。

その後、参加者からの質問に登壇者が答える形での討論が始まりました。

はじめに古賀伸明共同塾頭がマイクを取ります。

「余剰幻想という言葉を今回はじめて見聞きし、グローバル化と民主主義のありかたについて、より深く掘り下げて議論せねばならない時代が到来したと理解している。そんな中で今回の研究発表にあった『中核人材』『有権者教育』といった提言は極めて重要なものなのだと感じた。こういった議論をすべての国民、すべての層で行っていく必要があるだろう」(古賀共同塾頭)

その後、進行役の曽根運営幹事が参加者たちに質問を募ると、会場のあちこちで手が上がります。

余剰幻想を捨てた品位ある国にはモデルがあるのではないかという持論の発表や、メンバーが今の若い世代に期待することは?といった問いかけなど、特に若い学生たちからの質問、意見が次々と飛び出します。

中でも先出の総論でキーワードとなっていた「品位」については特に多く話題にのぼっていて、緒方貞子共同塾頭からは「(品位という言葉の)定義が曖昧。自分で決めるものなのか、他者から決められものなのかはっきりしないのでは」といった辛辣な指摘も。

また、吉川弘之共同塾頭からは、今回の研究発表の中に『科学的な面からの意見・助言』がなかったという指摘もあり、今後の研究・活動に有益な課題が発見できたと言ってよいでしょう。

議論が尽きないところでしたが時間が迫ってきました。

最後にメンバーを代表して茂木共同塾頭が参加者とメンバーへの謝辞を述べます。

そして4月以降、日本アカデメイアは「第二期」としてより充実した活動を続けていくことを発表。今後も世界的な発信力を強化し、活力ある国作りに寄与すべく一層の努力を続けていく、と宣言すると、会場は割れんばかりの拍手に包まれ、全プログラムが終了しました。