⽇本アカデメイア事務局
公益財団法⼈ ⽇本⽣産性本部

近年顕著になりつつある主要国の国内利益優先志向や国際協調体制の後退、国際機関の機能低下などが、グローバリズムを後退させ、国際社会に対立と不信を招くことへの懸念が高まっています。同時に、目覚ましい速さでAI、ビッグデータなどの情報通信技術が進化し、経済体系が大きく変容することが予想されます。今まさに、グローバルガバナンスの将来が世界から問われています。
日本アカデメイアでは、このような問題認識のもと、ベルリンの壁崩壊、冷戦終結から30年という節目の年にあたり、フランスより経済学者・思想家のジャック・アタリ氏、米国より政治学者・ハーバード大学教授のグレアム・アリソン氏を迎え、第1回「東京会議」「世界のパワー構造の変容とグローバルガバナンスの将来」を開催しました。会議では、これからのグローバルガバナンスのあり方と日本の役割について討議し、「東京宣言」を発表しました。

東京宣言(PDF)

海外招聘討論者

ジャック・アタリ氏(経済学者・思想家)
グレアム・アリソン氏(政治学者・ハーバード大教授)

第1回 「東京会議」
「世界のパワー構造の変容とグローバルガバナンスの将来」
―冷戦終結30年にあたってこれからの世界と日本を考える―

プログラム

日 時:2019年12月12日(木)13時00分~17時00分
場 所:グランドハイアット東京 2階「コリアンダー」

13時00分 開会・主催者挨拶
茂木 友三郎 日本アカデメイア常任塾頭
キッコーマン取締役名誉会長 取締役会議長
13時10分

セッションⅠ「世界の統治システム、その危機の構造を分析する」

モデレーター
田中明彦 政策研究大学院大学長
登壇者
ジャック・アタリ氏(報告者)
佐々木毅 日本アカデメイア常任塾頭・元東京大学総長
小林喜光 三菱ケミカルホールディングス取締役会長
グレアム・アリソン氏


14時40分

コーヒーブレイク

15時15分

セッションⅡ「国際政治経済システム改革への展望とシナリオ」

 

モデレーター
田中明彦 政策研究大学院大学長
登壇者
グレアム・アリソン氏(報告者)
茂木友三郎 日本アカデメイア常任塾頭・
キッコーマン取締役名誉会長 取締役会議長
北岡伸一 国際協力機構理事長
ジャック・アタリ氏

 

16時45分

両セッションのまとめ
田中明彦 政策研究大学院大学学長

16時50分

閉会挨拶・「東京宣言」発表

福川伸次 第1回東京会議実行委員長
地球産業文化研究所顧問・東洋大学総長

17時00分

終了


会議の冒頭で挨拶した茂木友三郎 常任塾頭は、「グローバルガバナンスのあり方や市場経済・民主主義の将来、その持続可能性について、危機感や問題意識を共有し、次の世代のために声を挙げなければならない時を迎えている」と会議開催にあたっての思いを述べました。

「世界の統治システム、その危機の構造を分析する」と題したセッションⅠでは、まずアタリ氏が、過去にはリーダーが存在したために国際秩序が存在したが、現在は米国も中国も脆弱性を抱えており、また将来的に他のどの国家も世界のリーダーになりえないと指摘しました。また、国家が市場・企業によって凌駕される可能性があり、グローバルな課題を解決する意志を持ち行動する主体がなくなることにより紛争が多発するとして「我々は非常に危険な地帯に足を踏み入れている」と危機感を表しました。これに対して佐々木毅 常任塾頭は「グローバリズムと民主政との非調和的な関係を念頭に置いたうえで、どのような構想と戦略がありうるか考える必要がある」と述べました。

また小林喜光 三菱ケミカルホールディングス会長は、「令和はBeautiful Harmonizationといわれるが、『令(Command)』のハーモナイゼーション(調和)を日本が率先してやる時代だ」として、欧米からみた日本の役割を問いました。アリソン氏は「これまで日本は控えめな役割を傍観者として果たす傾向があった」としながらも、日本が環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定 (CPTPP)を牽引したことにも触れつつ、「もっと自分に何ができるかを自問自答してほしい」として、特に緊張が高まっている北朝鮮の核問題について積極的な役割を果たすよう求めました。

セッションⅡは「国際政治経済改革への展望とシナリオ」をテーマに行われました。アリソン氏は、覇権国と新興国である米中の対立と競争は不可避なものの、冷戦からの教訓である「用心(Caution)」「コミュニケーション(Communication)」「抑制(Constraints)」「妥協(Compromise)」「協力(Cooperation)」の5つのCを実践することによっていわゆる「トゥキディデスの罠」から逃れ、戦争を回避することは可能だとしました。

米中の対立について、茂木常任塾頭は長期化を予測したうえで、日本の役割について「中国に対し市場経済のよさを身をもって示すことであり、企業はその担い手だ。それが結果として世界の平和と安定に貢献していく」としました。これに対してアタリ氏は「日本には、米中が信頼に満ちた対話ができるよう働きかける仲介役(Honest Broker)になってほしい。それが世界の利益にもなる」と期待感を示しました。

一方、北岡伸一 国際協力機構理事長は、平成の30年間でどれだけ日本が自己変革できたのかと問うたうえで、現在の日本がリーダシップを取るのは困難であり「政治の変革を含めてパワーアップが必要だ」と述べました。

また民主主義についてアリソン氏は「自然の形では機能せず、常に注意を払って育てていかなければならない。非常に難しい」としました。

両セッションを終えて、モデレーターを務めた田中明彦 政策研究大学院大学長は「歴史の悲劇を繰り返さないためにはどうすればよいか考察しつつ、前例のない課題にどう取り組んでいくかという時代に私たちは立っている」としたうえで、「民主主義国が自らの民主主義をよりよくし、民主主義と市場との関係をどううまく運営していくかという難問に私たちは直面している」と総括しました。

最後に福川伸次 第1回東京会議実行委員長より「東京宣言」が発表されました。

日本アカデメイアでは東京宣言を受け、グローバリズムの再生・進化や民主主義の統治能力向上をはじめ、人口動態、資源・環境、情報関係技術に関する管理体制の確立など、世界的課題の解決に向けた戦略を構築するため、世界の英知を結集し、知的進化を図るネットワークの仕組みの創設について、2020年前半に具体的検討を進め、後半にはアクションプランを決定し、行動に移す予定です。


当日の動画

①開会挨拶~第1セッションまで

②第2セッション

③両セッションのまとめ
~閉会挨拶・「東京宣言」発表まで


登壇者

茂木 友三郎
日本アカデメイア常任塾頭
キッコーマン取締役名誉会長 取締役会議長

ジャック・アタリ
経済学者・思想家

グレアム・アリソン
政治学者・ハーバード大教授

佐々木毅
日本アカデメイア常任塾頭・元東京大学総長

田中明彦
政策研究大学院大学長

福川伸次
第1回東京会議実行委員長
地球産業文化研究所顧問・東洋大学総長

小林喜光
三菱ケミカルホールディングス取締役会長

北岡伸一
国際協力機構理事長