⽇本アカデメイア事務局
公益財団法⼈ ⽇本⽣産性本部

■国際社会の重要な一員であるために

interview_10-1.jpg日本は他国と競争しつつ協力をして国際社会の中で生きている。どうすれば、国際社会における重要な一員として競争に遅れることなく世界と協調して、より良いグローバル市場を創るための役割を果たしていけるか。 そのためにはまず、強い経済の復活が不可欠である。日本が潜在能力を発揮し、自由な経済活動を行ううえで障害となっている農業をはじめとした様々な分野における〝不自然な〟制約を取り除き、よりイノベーティブな技術革新を行うことで経済を浮上させ、日本の財政赤字・巨額な累積債務を克服することが欠かせない。
最重要課題の一つである少子化問題も、つい数年前まで事態が深刻だという認識もなく、これといった政策を打ち出さないまま、今日に至っている。人口が国力の基盤であることはもとより、出産・育児は実にチャレンジングで楽しいことだと広く知ってもらいたい。少子化問題では一種の伝統の見直しが必要で、グローバルな視点から諸施策を検討し、広く国民の意識改革を図り、働き方の見直しや職場内託児所の設置など、あらゆる手段に取り組むべきだろう。

■長期的な展望に立ち、能動的かつ現実的な外交を

interview_10-2.jpgさらに、新興国の台頭や欧米の相対的な影響力の著しい低下など、日本を取り巻く国際情勢は激変している。冷戦期には機能した日本外交の綻びが目立つようになっている今こそ、長期的な展望に立ち、アジア地域の安定、日米同盟といったグローバルイシューについて、現実離れした理想主義や偏狭な情緒的ナショナリズムから生み出される希望的観測、不毛な国内対立から脱却し、能動的かつ現実的な外交を展開しなければならない。
先ごろ、政府が集団的自衛権に関する憲法解釈変更を閣議決定したことに対して、いろいろな懸念や誤解があるが、現下の政府のアジェンダが全部実現されても、日本が世界の主要国の中で最も平和愛好的な国であることは間違いない。防衛の要諦は「侵さず」「侵されず」「脅さず」「脅されず」である。とりわけ力を増した周辺諸国が、国益達成のための外交を積極的に進めている現状においては、確固たる備えなしに大きな声で強硬なことを言っても何の意味もない。
重要なのは強い言葉ではなく、防衛政策の強化である。相手の不当な要求に冷静にはっきりとノーと言うことが肝要で、そのための備えをしておくこと、どの国にも非難されるいわれのない防衛政策の変更によって日本の決意を示すことが、今最も必要なことである。 その延長線上で、主権平等、紛争の平和的解決、法の支配、基本的人権、民主主義などを核とする、日本と利害や価値観を同じくする国々との提携を深め、これらの価値実現に寄与すべきだろう。

■機能不全に陥る国連の立て直しを

また、パートナーの国々との提携の延長線上で2030年頃までになしえたいことは、国連の改革である。国連は、日本単独や二国間の外交では解決できない国際的な脅威に対する規範づくりや予防・対処措置の実施において最も有効な機能を持つが、昨今、機能不全に陥っている。特にその傾向は、中露の拒否権もあるが、欧米中心の法に基づく紛争解決がうまくいっていないことに顕著に表れている。
正義というのは人によって異なり、それに何とか折り合いをつけたのが法である。したがって、その場に適さない極端な正義を持ち込み、杓子定規に他国の法を適用しようとしても、結局問題は解決されない。ケースによってはもう少し柔軟に民主主義のあり方を考えていくことが求められている。一見あいまいではっきりしないが、経済発展から平和、民主主義の道を辿った日本流の性急ではない民主主義のモデルは、一定程度説得力があるのではないか。そういったコンセプトを中心に、信頼性の危機に直面する国連を日本が率先して立て直し、使い勝手の良い機関に刷新することを期待したい。

■「鎖国」状態にあるメンタリティを打開せよ

interview_10-3.jpg一方、国際的な発信力の強化が不可欠である中、厳格な解釈にこだわり、日本だけで通じる「正論」を振りかざすだけでは国際世論に訴えることはできない。部分最適ではなく全体最適のために本当に大切なことは何か、冷静な情勢認識で戦略を練り、多方面から国際世論形成に働きかけなければ、国益を損じることになる。
世界を日本の味方にすることがより一層重要になってくるが、日本がグローバルプレイヤーとしての責務を果たす上で阻害要因となっているのは、実はまだかなりの程度、日本人のメンタリティが「鎖国」状態にあるという内なる問題が大きい。内向き志向の根底にあるグローバルな視点の欠如という問題の打開なくしては、本質的な解決は難しいだろう。(談) 

肩書きはインタビュー当時 文責:事務局


北岡伸一さんは、日本アカデメイアの長期ビジョン研究会「国際問題研究」グループで共同座長をお務めいただいています。
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役職は当時のものです。