⽇本アカデメイア事務局
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福川伸次・地球産業文化研究所顧問・東洋大学理事長に訊く「日本の長期ビジョン」
福川伸次・地球産業文化研究所顧問・東洋大学理事長に訊く「日本の長期ビジョン」
■人間の価値や能力に重きを置き、高める社会の構築を
世界の現状を俯瞰すると、アメリカ主導の市場原理主義と金融中心の経済運営が行き詰まり、今後どのような社会を目指すべきか模索している状況にある。日本もまたその例外ではない。
2060年の世界における日本の名目GDPのシェアは3%まで下がるだろうとOECDのレポートは予測しているが、日本がねらうのはGDP大国ではなく、一人当たりGDPを高めることのほうが大切だ。今後重要な視点となるのは、いかに人間の価値や能力に重きを置くか、そしてこれらを高めるかだろう。
では、人間価値とは何か。そのひとつは「創造性」である。特に技術のフロンティアは無限の広がりを持ち、そういうフロンティアを拓いていくことは、人間価値の高度化につながる。また、感性を高めたり感激を与えたりするような「文化価値」や人類や地球の存亡にもかかわる「環境・自然との共生価値」といったものも肝要だ。 高い倫理観に裏づけられた付加価値を高め、人間の能力を発揮する社会を構築することができれば、我々が抱えている問題のかなりの部分を解決することができるのではないだろうか。
たとえば、日本が直面する高齢社会というのは、日本の医療が進歩し、社会保障制度が完備された結果であり、決して問題を卑下する必要はない。むしろ、高齢社会は誇るべきもので、これをどのように優位な形に持っていくかという知恵が求められている。今後、健康増進ということがより重要になり、医療はもちろん、神経系統の機能や栄養、運動等、総合的なアプローチが欠かせないだろう。
また、女性の能力を生かしていくためには、今は育児との両立という側面ばかりに焦点があてられているが、仕事のあり方やオフィスの設計も変革していくことが必要だ。これだけICT化が進んでいるのだから、これをもっと利用する方法というのはいくらでもあるはずで、工夫を重ねていかなければいけない。
そのうえで、日本が独自の新しいモデル、解決方法を提示することができ、高度で優れた社会を構築することができれば、まさに「課題先進国」から「課題解決先進国」へと変貌し、国際的評価も高まっていく。
■「二番手発想」から脱却し、自己決定能力を高める
そこで、これからの日本にとって一番大事なことは何か。わたしは、従来の「二番手発想」から脱却し、自己決定能力を高めることだと考えている。
これまで政治の世界ではポピュリズムがはびこり、足して2で割る妥協や貸し借りによる決着が行われてきた。日本の民主主義はよく「観客民主主義」だと揶揄されるように、国民は政治の動きを傍観するだけで、ジャーナリズムがそれを囃すという構図になっている。 外交もどちらかといえば、他国の動きに追随するだけで、世界はこうあるべきだというビジョンがあって、何らかの手が打たれたことはほとんどない。企業も、前例踏襲、他社追随、政府依存の体質が色濃く、横並び意識が強かった。
しかし、今や人のふりをみて問題が解決できる時代ではない。海図なき航海に世界も日本も踏み出しているわけで、自分で考え、針路を見つけ、新しい航路を見出さなければいけない。目の前に船が通ったからその後を行けるというものでもなく、自ら最善の選択、全体最適の決定を下し、問題を解決することが必須となっている。
■世界の舞台で活躍できる「ニューエリート」を生み出す社会に
世界の評価を高めるために、日本が努力しなければいけないことがもうひとつある。それは、世界の舞台で活躍できる優秀な人材、いわゆる「ニューエリート」を様々な分野で輩出することである。これは、新しい価値づくりに社会が努力をしている、そういう人材を生み出す社会なのだという評価につながり、国の存在感、尊敬感を高めることになる。
アメリカでは、経済が停滞し、産業が不活発だった1985年に「ヤング・リポート」が発表され、研究開発強化や知的財産保護、人材教育などが提言された。世界中から学生を集め、大学卒業後も優秀な人材には優先的にビザを与え、そのままアメリカに留まる戦略を採ったことで、見事に立ち直った。 今や、アメリカで学位を取る人の約半数が非アメリカ人だと言われているが、世界中の優秀な人材を集め、ひいては日本が再生するためにも、日本の魅力を高め、日本の良さを発信することが不可欠になる。
日本のあるべき姿を目指して日本人自ら進化していけるかどうか、まさに岐路に立っている。日本の変革に向けて、自ら決めて実行する覚悟が問われている。 (談)
肩書きはインタビュー当時 文責:事務局
福川伸次さんは、日本アカデメイアの長期ビジョン研究会「日本力研究」グループで共同座長をお務めいただいています。
長期ビジョン研究会について、詳しくはこちらのページをご覧ください。
役職は当時のものです。