⽇本アカデメイア事務局
公益財団法⼈ ⽇本⽣産性本部

■「日本力」の源泉は科学技術と文化

日本はいま、デフレからの脱却やTPP、あるいはエネルギー問題、立地競争力の強化など、解決に緊急を要する課題と、少子高齢化や人口減少にともなう地域力の低下など、いまから手をつけなければ、将来大きな禍根を残すであろう中長期の課題を抱えている。

interview_7-1.png2010年には、日本の名目GDPは中国に抜かれ、世界第三位となった。EUもひとつの国だとみなして考えれば日本の順位はこれを下回るし、目下、インドが急激に追い上げていることをふまえると、今後さらに順位が下がるのは必定である。当然GDPが高いことは、すなわちその国に住んでいる人たちが豊かで幸せだということを意味しているわけではない。GDPは単なるひとつの指標にすぎないが、右肩下がりの現状に皆、漠然とした不安を感じている。
目指すべき方向性を見失い、大海を漂流するような状態にあって、日本がどう自信を取り戻すかがきわめて大事であるが、「科学技術」と「文化」の二つの領域が日本の本質的価値を高め、日本ならではの影響力や存在感を発揮する柱になりうるのではないか。過去に比べて低下したとはいえ、この国の国民が持つ「技術」に対する意識の強さやレベルの高い文化・歴史こそが世界に誇れる「日本力」そのものではないかと考えている。もちろん、独りよがりの認識では誰も納得しない。グローバルな視点に立って、世界の文脈の中で、相対的価値として自分たちが持っている強み、特徴というものをしっかり理解することが重要である。
とりわけ科学技術には、環境やエネルギー、食糧、生物の問題など、グローバルイシューを解決していく力が求められている。40年ほど前から環境問題に向き合い、解決にむけて技術やノウハウなどを培ってきた日本が世界に貢献できる可能性は決して小さくないだろう。今後、これらをどう新興国に普及していけばよいか、その国の近代化にむけ、我々がどうサポートしていくべきかを真剣に考えることが必要で、世界が抱える課題解決にむけて日本が率先して取り組み、力を発揮する国となれば、我々自身も誇りに思えるし、海外からも信頼・尊敬される国となって、日本の存在感を世界にアピールすることができるのではないか。

■科学技術力強化のために投資と中小企業支援を

interview_7-2.pngいっぽう、一国の科学技術力を強化するためには、予算の配分から教育体系のあり方まで、一気通貫でベクトルが同じ方向に向いていることが肝要である。しかし、足元の現実はというと、日本政府の研究開発投資はアメリカや中国に大きく見劣りするなど、〝科学技術立国〟への道は心もとない。国際競争力の優位性を確保・維持するためには、研究開発投資の拡充が不可欠である。時には戦略的な視点からとらえ、すぐには成果が期待できなくても、国の責任において必要な投資をおこなうべきだろう。
また、この日本の科学技術の基盤を支える中小企業の存在が重要であることはいうまでもない。非常に優れた固有の技術を持つ中小企業が海外展開できるよう、どう支援していくかということも大きな問題である。マクロレベルでは、やはり人・モノ・カネの流れが自由におこなえる経済連携が欠かせない。特に21世紀型FTAと呼ばれるTPPなどのメガFTAには、断固とした政治決断で早期妥結を目標に交渉に挑んでほしい。ミクロレベルでは、海外での商習慣や現地の販売体制に馴染めず、失敗に終わってしまうケースも多い。知的財産を守りながら、海外マーケットへじわじわと浸透していける政府関係者やコンサルタントなどの〝役者〟を揃え、企業の発展に寄り添っていくことが大切だ。

■子どもたちへの動機づけは大人の責任

interview_7-3.pngさらに、近年、日本の子どもたちの理数離れが懸念されているが、小学生のころに理科や算数が好きか嫌いか、面白いか面白くないか、入口における先入観でその人の将来が決まってしまう。初等教育の段階から、子どもたちが社会との関わりのなかで科学技術に興味を持ったり、イノベーションの意識を醸成したりするよう、動機づけしていくことは、まさしく大人の責任である。当社においても、青少年への科学技術教育の推進に力を注ぐとともに、教育の質を高めるためには、その子どもたちを教える教師の能力を高め、優秀な教師を増やすことが最優先課題だという問題意識を持っている。そのため、指導者育成の一環として、教員や教育関係者を対象とした体験型科学教育プログラムの普及などにも取り組んでいる。
日本力を向上させていくためには、日本が持つ科学技術と文化を伸ばしていくとともに、そのための人材を育成するという長期ビジョンを描き、共有することが最も大事なことである。併せて、日本の強みを海外に知ってもらうために、日本からの発信力強化に努めていくことが、我々に課せられているのではないだろうか。(談)

肩書きはインタビュー当時 文責:事務局


岡村正さんは、日本アカデメイアの長期ビジョン研究会「日本力研究」グループで共同座長をお務めいただいています。
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役職は当時のものです。