⽇本アカデメイア事務局
公益財団法⼈ ⽇本⽣産性本部

■既存のモデルから脱却を

interview_5-1.jpg世の中には悲観論も多いが、わたしは、日本の将来も世界の将来も悲観していない。世界の総人口は72億人程度で、国連の人口推計によると、2065年には100億人を突破する見通しだ。1950年の総人口が25億人だから、わずか100年強で4倍になるという、人類がかつて経験したことのない急激なスピードで、人口の爆発的増加が当面続くことになる。エネルギーや水・食糧問題を含めたグローバルイシューを解決し得るかが一つのチャレンジになるだろうが、わたしは、人類の英知を結集し、技術が発展すれば対応可能だろうと、かなり楽観的に考えている。
日本についても、日本人は、追い詰められれば必死にもがいて考え、新しい技術なりビジネスモデルなりをつくりだしていく対応力に長け、国を挙げて変革・改革を成し遂げる可能性があると信じている。ただし、既存のモデルから脱却し、パラダイムシフトを図らなければならない。

■世界に貢献しつつ、世界の成長を取り込め

世界の経済は、2000年代前半まではいわゆる先進国が牽引していたが、その後、中国を筆頭とした新興国の台頭著しく、いまや、新興・発展途上国の経済規模(購買力平価ベースのGDP)は全体の約5割と、先進国に並ぶ。
他方、日本は、国内市場がそれなりの規模なので、これまでは国内のマーケットだけに専念していても、企業は十分成長することができた。しかし、人口減少という問題に直面し、今後は、市場規模の拡大はあまり見込めない。加えて、食糧や資源・エネルギー等の海外依存度がきわめて高く、否応なく高齢化がすすむわが国にあって、経済的豊かさを維持・向上させていこうとすれば、世界の経済発展と生活レベル向上に貢献しつつ、世界の成長を取り込み、結果としての富を日本に持ち帰るモデルに切り替えなければならない。そのためのビジネスのやりかた、人材育成など、システムをすべて変えていかなければならないが、多くの企業では全く対応できていない。

■技術革新、グローバル展開のための人材の育成を

interview_5-2.jpgとりわけ一番大きな課題として懸念しているのは、人材の質の低下である。他者を追いかけていた時代には、ロールモデルを手本に、より良いものをより安いコストでつくり、シェアを拡大してきた。しかし、今日、日本企業は追いつかれる立場にあり、他国の企業より半歩先、一歩先をすすまなければいけない。そのためには、一つは技術革新を継続するための独自性・独創性に富んだ人材を育成すること、もう一つは、グローバルにそれを展開していくためのグローバルマインドを持った人材を育成することが必要となる。企業や大学はもとより、人材育成を国家戦略として取り組むことが不可欠である。
さらに、安倍政権以降強調されるようになった女性の活躍推進についても、社会も経営者の意識もグローバルスタンダードから周回遅れであることを認識しなければいけない。
このような時代にあって、当社では「事業のあらゆる面で、グローバルで競争力のある会社になること」を近未来の最大の目標とし、グローバル市場における同業他社とどう戦い、生き残るかということにすべてを集中させ、戦略を考えている。人材についても、日本人が不得意な分野については国籍を問わず、そこが得意で成功した人に委ね、実際に日本で成功の具体例を体現してもらう。それを日本人が自分のものとして、自らより良い運用ができるようにしていく。なんでも自前主義で完結しようとするのではなく、足りない部分は謙虚に学び、かつ積極的に取り込むという柔軟な発想が、ビジネスはもちろん、教育でも国家運営でも必要なのではないか。

■変革・改革はリーダーが先導しなければならない

interview_5-3.jpgEUが誕生し、人材の移動も自由になり、おのずから多様化が進んでいるヨーロッパや、移民大国であるアメリカとは、日本の事情は異なる。日本人が今の延長線上でなんとかなると考えている間は、改革はなかなか難しく、リーダーが変革を先導していかなければいけない。
リーダーにとって一番大事なことは、常に市場や社会の変化をしっかりと見つめ、変化を先取りして変革を起こしていくことである。もちろんものごとを変革し、新たな価値創造にチャレンジすることは不安が先に立ち、勇気も要る。しかし、日本人は目標を与えられれば、あるいは日本独自の成功モデルをつくれば、必ずそこから学び、追いつき、さらに良いものに改良していくことが得意だ。いまは、歯を食いしばってでも、日本における成功例をつくっていかなければならない。
わたし自身、当社を一皮も二皮もむけさせ、グローバルで本当に競争力のある会社にするために、フランス人のクリストフ・ウェバー氏を後継者にするという決断をした。わたしのビジネスキャリアの最後をかけ、全力をあげてこれを成功させたい。変革・改革というのは、リーダー自ら率先するしかないものだからだ。(談)

肩書きはインタビュー当時 文責:事務局


長谷川閑史さんは、日本アカデメイアの長期ビジョン研究会「価値創造経済モデルの構築研究」グループで共同座長をお務めいただいています。
長期ビジョン研究会について、詳しくはこちらのページをご覧ください。
役職は当時のものです。