⽇本アカデメイア事務局
公益財団法⼈ ⽇本⽣産性本部

■「日本があって良かった」と思われる国に

interview_3-1.jpgわたしはこれまで、キッコーマンしょうゆをグローバルスタンダードな調味料とすべく、世界各国の食文化との融合を図ってきた。それは、世界中の食卓にキッコーマンの商品がならび、国を問わず多くの人びとから「キッコーマンがあって良かった」と思われる企業になりたいという信念による。
わが国の将来を考えるうえでも、国際社会において「日本があって良かった」と思われるようになることが望ましいのではないかと思う。軍事力や圧倒的な経済力といったもので国際的な影響力を高めることは現実的ではないが、日本の強みを生かすなど、やりかた次第では日本は世界で信頼され、尊敬される国になれるのではないかと考えている。

■アメリカとの友好関係を基礎に

2030年ごろの世界情勢を展望する際、どのような前提条件を置くべきか、非常に悩ましい。世界第1位から第3位の経済大国の将来が不確実な状態だからだ。たとえば、日本の将来予測は悲観的なものが多かったが、安倍政権が発足し、アベノミクスが打ち出されると、これらとは大きく異なる予測も出てきた。
新興国が台頭し存在感を増すなか、世界におけるアメリカの相対的な地位低下も否めない。さらに、中国の経済社会に対する将来予測も一様ではない。
こうした情勢見通しをおこなっても、今後の日本の外交戦略を考えると、アメリカとの友好関係を基礎におくことは論をまたないだろう。アメリカの国際的な影響力が弱まってきたとはいえ、欧州も中国もアメリカに代わることはできない。自由・民主主義・法の支配といった価値観を同じくする国のリーダーは、依然としてアメリカである。

■科学技術力を突破口に、新興国との関係強化を

interview_3-2.jpgあわせて、新興国との関係を強化していくことも欠かせない。特に、対日感情の良いASEAN諸国との関係を深めていくことが重要だ。現在、中国、韓国両国との間では、領土問題や歴史認識など、様々な困難な課題を抱えているが、未来志向で関係改善を図るべきであり、そのひとつの突破口になりうるものが、日本の優れた科学技術力ではないかと考える。
たとえば中国の環境問題や食糧・農業問題の解決のために、日本が長期的に協力し、双方にとってプラスとなるプロジェクトを共同推進することで、両国間の関係が改善されていく可能性も広がるだろう。
もちろんこれは中国に限らない。食糧・水問題や資源・エネルギー、環境問題など、さまざまなグローバルイシューの解決にむけ日本が貢献することは、世界における日本のプレゼンスを高め、維持していくために重要なことである。

■対外発信力の抜本的な見直しを

さらに、日本の対外発信力を抜本的に見直すことも不可欠である。近年、中国や韓国は、広報予算を大幅に増やし、発信力の強化に積極的に取り組んでいる。それに比べ、日本はみずからの立場や考えかたを世界にむけて発信することに無頓着で、広報体制は未整備のままだ。「真理を語ればわかってもらえる」といった日本の常識は世界には通用しない。日本の国益のためには「パーセプション・マネジメント」(見かたのギャップを埋める作業)に積極的に取り組むことが必要である。その一環として、政治家の発言をサポートするスピーチライターや広報のスペシャリストの育成と活用をすすめるなど、国家としての広報戦略をつくるべきではないか。世界の国々に日本が考えていることを正しく理解してもらえるよう、努めていかなければいけない。

■日本はアジアの模範的なモデルとなれ

interview_3-3.jpg世界には、政治体制においても経済活動においてもさまざまな形態がある。民主主義と一党支配、自由主義経済と国家資本主義といったものだ。今後、なにが最も優れたシステムとして残り、広がっていくか、システム間のいわば〝競争〟が起きている。
日本は日本のシステムが優れていることを訴求し、アジアにおける模範的なモデルとならなければいけない。ほかのシステム同様、自由主義経済も良いことずくめではない。問題点を顕在化させず、自由主義経済の利点を生かせるかどうかは、ひとえに経営者の振る舞いにかかっている。
経営者はそのことをしっかりと認識し、市場経済の良さを示さなければならない。さらに、国際社会において「日本があって良かった」と思われるよう、企業は「良き企業市民」として地域社会に貢献することが大切だ。
政治も同様である。民主主義の大きな欠点のひとつは、決断が遅く、なかなかものごとが決まらないことである。民主主義が内包する欠陥を自覚し、議論をして決めたことを確実に実行しなければならない。民主主義よりも一党支配体制のほうが効率的で良いと言わせないよう、政治家も含め、我々は努力をしなければならない。(談)

肩書きはインタビュー当時 文責:事務局


茂木友三郎さんは、日本アカデメイアの長期ビジョン研究会「国際問題研究」グループで共同座長をお務めいただいています。
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役職は当時のものです。