⽇本アカデメイア事務局
公益財団法⼈ ⽇本⽣産性本部

■日本のプレゼンスを高め、地盤沈下に歯止めを

interview_2-1.jpgどうすればもう一度、世界における日本のプレゼンスを高められるか。この問題の解決が、2030年の日本を展望するうえで、共通かつ最大の課題だ。
日本は2008年をピークに本格的な人口減少社会に突入し、日本市場は長期的に縮小傾向にある。企業活動においても、国内にとどまるより成長率の高い海外で事業展開をすすめざるをえず、結果的に雇用や消費など国力が大きく低下していくことが見込まれる。
さらに、目下渦中にあるTPPを含め、自由貿易を推進し、基本的には関税を撤廃していこうというのが、いまの世界の潮流である。それによって日本の経済活動は活性化するだろうが、他方で、グローバリゼーションのもとでは国際競争が激化し、得てして強者がひとり勝ちの様相を呈する。
とりわけアジアを中心に新興国が急成長を遂げるなか、既存の製品と市場に固執すれば、日本の競争力はむしろ相対的に低下する可能性すらある。
したがって、日本は、ねらいを定めた得意な分野において勝者として世界にアピールできるような先端技術を開発することにより、世界に先駆けて新しい需要を創出することがきわめて重要になってくる。日本は地盤沈下にどう歯止めをかけるのか、真剣に考えなければならない。

■長期的課題に対応できる政治を

1980年代まで日本の経済は、さまざまな問題を抱えつつも成長をしてきた。しかし、今日の日本経済には、持続的に成長をするうえで、人口減少問題はいうまでもなく、規制緩和や税制、あるいはエネルギーコストの問題など、政治と連携しなければならない課題が山積している。国際競争力を高めるためには経済界の努力だけでは限界があり、21世紀の今日、政治と経済が車の両輪となって解決することがより大切になってきたことを認識するべきだ。
我々が政治に期待していることを実現可能とするためには、そもそも日本の政治が長期的課題に対応できる体制を整えていることが欠かせない。核心は、国のトップがじっくりものごとを考え、欧米、中国、アセアンなどの視点から日本を見直し、日本のすすむべき進路を決めること、そして、政治における「時間軸」を立て直すための諸々の制度改革をすすめることである。

■今こそ改革の好機

interview_2-2.jpg2012年11月、日本アカデメイアの有志は、その突破口として国会改革の必要性を提言した。実際、安倍総理は国会審議の合間をぬって、就任後わずか1年で25カ国を訪問し、さらに今年に入ってからも中東・アフリカを歴訪するなど、積極的にトップ外交を打ち出している。
国会改革の必要性が理解された背景の一つには、多くの政治リーダーが与野党双方の立場を経験したことで、それぞれの立場や利害を超えて改革の方向性に対する共通認識を形成できたことがある。まさにいまが改革の好機である。
行政や政党のありかた、たとえば、法律的にとらえどころのない現在の政党の権利と責任をより明確にし、政党が政治的リーダーとなるべき人材をプールし育成することを期待したい。
そして、政党、ひいては日本の政治をさらに高みへ導く道筋をつけてほしい。
もちろん、長期的な視野に立ってより良い政治をつくりあげるためには、与野党の合意形成の方法、二院制のありかたなど多くの課題があるが、足元の現実を踏まえつつ、理想を追求する姿勢を貫くことが肝要だろう。

■世界に誇るべき二つの精神性を生かせ

interview_2-3.jpgいっぽう、矛盾するようだが、1970~80年代のバブルが崩壊するまでのような経済力をもって、日本が世界に存在感を示すことは現実問題として容易ではない。日本が中国を抜き、世界第二位の経済大国に返り咲くと信じている人が果たしてどれだけいるだろうか。経済力以外にどうやって日本の存在感を発揮していけるかも、あわせて考えることが大事である。
そういう視点で世界を俯瞰すると、宗教対立と民族紛争の二つが常に世界の平和を脅かしているが、幸い日本は、地理的・歴史的特性から、宗教や民族問題に関しては寛容と融和の二つの精神性を育んできた。世界でも誇りうる精神性をもった日本人が、国際社会のなかで問題解決と調停に参画することは、成熟した先進国としての責務でもある。
日本人のすばらしい精神性をもっと世界に発信し、日本が世界に貢献できる国になれるかどうかも、今後、日本のプレゼンスを高めるためには非常に重要な鍵となるのではないだろうか。(談)

肩書きはインタビュー当時 文責:事務局


大橋光夫さんは、日本アカデメイアの長期ビジョン研究会「統治構造研究」グループで共同座長をお務めいただいています。
長期ビジョン研究会について、詳しくはこちらのページをご覧ください。
役職は当時のものです。